中秋月 [漢詩]
台風の風に乗り、雲が千切れるように、東の空に流れている。
雲間に見る嵐の中の十五夜も、また趣がある。
唐の詩人で成彦雄(せいげんゆう)作、「中秋月」。
王母よそおい成って、鏡いまだ収めず。
欄によるの人は水精の楼にあり。
笙歌(しょうか)、清光を占め尽くすなかれ
留与せよ、渓翁の一釣舟に。
西王母は夕化粧をこらし終えたが、いまだ鏡をしまわない。
(鏡のような月は、なおこうこうと照らしている。)
欄干によりかかって、月を眺める人は、水晶のような高殿にいる。
美しい宮殿では、月見の宴もたけなわ。詩歌管弦の遊びにふけっているが、
どうかこの月の清らかな光を、独り占めにしないでもらいたい。
奥深い谷川の一艘の舟を浮かべて、釣りをする漁師のじいさんにも、
どうかその光を残してやりたまえ。
*西王母は、崑崙山の仙女で、漢の武帝と遊んだという、伝説がある。
月を鏡に見立てている幻想的な詩。
春の漢詩ニ首 [漢詩]
唐の「杜甫」作、五言絶句。春ののどかな風景を表現した詩。
遅日 江山 麗しく 春風 花草 香ばし
泥とけて 燕子飛び 沙(すな)暖かにして 鴛鴦(えんおう)睡る
暮れるのが遅い春の日ざしに、川も山もうるわしく、
春風に吹かれて、花や草もかんばしい。
泥がとけたので、燕は巣を作ろうと飛びまわり、
川べりの砂が暖かなので、一つがいのオシドリが眠っている。
同じく「杜甫」作の「春夜喜雨」。五言律詩。ひそやかに降る春の雨。しっとりとした華麗な春の花。
春夜 雨を喜ぶ
好雨 時節を知り 春にあたりて すなわち発生す
風に随(したがい)て 潜(ひそ)かに夜に入り
物を潤(うるほ)して 細やかにして声無し
野径 雲 俱(とも)に黒く 江船 火 独り明らかなり
暁に紅の湿(うるほ)へる処を看れば 花は錦官城に重からん
うるおいの雨は降るべき時節を心得ており、雨を望む春の宵に降りだした。
風にのってひっそりと真夜中に降り、万物にうるおいを与え、細やかに音もない。
野の小道は雲につつまれて黒々と沈み、江に浮かぶ船の灯だけが、ぽつんと明るい。
明朝、紅色にしめっているのを見るとするなら、それは花が錦官城で、しっとり重たげに咲いている姿であろう。
春風 [漢詩]
探春 [漢詩]
北国からの雪便り [漢詩]
写真同好会BETEP(ヴェーツエル・風)のメンバーCHIEさんから、福島梁川の写真便りが届いた。
梁川には春や秋、何度も足を運んでいるが、冬景色もなんとも趣がある。
それでは、素敵な梁川の風景にふさわしい漢詩を添えて。
唐の詩人、柳宗元作。【江雪】(大川の冬景色)
今の季節にふさわしい詩。枯淡の味わいがある。
一幅の墨絵が、脳裏に浮かぶ漢詩。
◎千山、とり飛ぶこと絶え 万径、じんしょう滅す。
こしゅう、さりゅうの翁、ひとり釣る、寒江の雪に。
◎すべての山々には、飛ぶ鳥の姿も絶え、
すべての小道には、人の足跡も消えてしまった。
一艘の舟に、みのかさをつけた老人が、
寒々とした雪の大河に、釣り糸を垂れている。
*漢文名作選 大修館書店より引用
桃之実 [漢詩]
対酒 [漢詩]
秋も深まり燗酒が恋しい季節。
お酒にまつわる漢詩、唐の詩人『白楽天』の【対酒】を紹介します。
白楽天は杜甫、李白と並ぶ唐代の詩人。酒と詩をこよなく愛した。
先の見えない、混沌とし殺伐とした世の中。でもこの漢詩を読むと、
些細なことで悩み、些細なことで人と争うことが、なんと虚しいことか‥。
人生は石火光中。大宇宙から見れば、人間の営みは塵、芥(あくた)のごとしですね。
嫌なこと、辛いことがあった時は、石火光中の言葉を思い出してます。
蝸牛角上、何ごとかあらそう。石火光中この身を寄す。
富にしたがい、貧にしたがい、しばらく歓楽す。口を開いて笑わざるはこれ痴人。
物事を宇宙からの目で見ると、全く意味がないほどの小さな事で、
いったい何を争っているのか。まるでカタツムリの角の上のことではないか。
人生は石火のごとく過ぎ去り、そこに身を寄せるはかなさ。
お金持ちはお金持ち、貧乏は貧乏、分に応じてとりあえず酒をのもう。
口を開いては悩み、悲しんだりするなんて馬鹿げたこと。大いに笑おうではないか!
【石火光中】火打ち石を打った時ほんの一瞬出る火花。そのように時間の短いこと。